先週、私は彼と些細なことで喧嘩をして別れた。それ以来、一週間何もやる気が起きず、大学も休んで飼い猫のニャー子とベッドでゴロゴロして過ごしていた。何をする気にもなれず、ただ時間だけが過ぎていく。
そんなある日、ふとスマホを手に取り、何気なくSNSを眺めていた時、前から気になっていた『モン・サン・ミッシェル』の動画が目に飛び込んできた。青空の下にそびえる美しい修道院と、潮の満ち引きによって変わるその風景に、私は心を奪われた。気づけば、頭の中で『行ってみたい』という思いが膨らんでいき、気がついたら旅行サイトでチケットを予約していた。
「こんなに衝動的なのは初めてかもしれない…」
呟きながら、隣で丸まっているニャー子の頭をそっと撫でた。ニャー子は目を細めて気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らしている。『別れたばかりなのにね』と苦笑いしつつも、心の奥底で少しワクワクしている自分がいた。
旅の日、身軽にリュック一つで、私とニャー子はバスに揺られ、パリの街を後にした。
ついにモン・サン・ミッシェルに到着した。目の前に広がる壮大な景色に圧倒されながら、私の胸は期待と興奮でいっぱいだった。ニャー子もキャリーバッグの中から身を乗り出し、興味津々な様子で辺りを見回している。
石畳の道を歩きながら、私はふと呟いた。 「女子旅も悪くないわね。」潮風に包まれながら、胸の中に渦巻いていた悲しみやモヤモヤが少しずつ薄れていくのを感じた。
どこか自由で、軽やかな気持ちになっている自分に驚いた。
夕暮れ時、修道院の階段に腰を下ろして、私はニャー子と一緒に遠くの景色を眺めた。空は茜色に染まり、静かに潮が引いていく音が耳に心地よい。猫と二人、なんとも言えない安堵感に包まれていた。
「これから、良いことが起こりそうな気がする。」
ニャー子の柔らかい毛並みに触れながら、私はそっと微笑んだ。新しい一歩を踏み出した瞬間だった。