雑感と制作過程
今回は「聖火隊黙示録~万聖節の鎮魂歌~」のアニメオープニングをご覧いただき、誠にありがとうございます。ここでは、その制作方法や裏話などを解説していきます。
使用ソフト
画像作成: SaeArt, Google AI Studio, クリップスタジオ動画編集: ダビンチリゾルブ
制作のきっかけ
今回、「ハロウィン・ナイト・パレード」のお題が「マルチモーダル」とのことでしたので、「これはもう色々なソフトを駆使してアニメオープニングを作るしかない!」と思い立ち、勢いで制作を開始しました。
STEP 1: 楽曲制作
最初に音楽制作AIの「Suno」で楽曲を作成したところ、思いのほか良い曲ができてしまい、思わず有料版に切り替えました。まるで曲を人質に課金させられた気分です(笑)。
制作手順小説や設定集をGeminiに読み込ませる。Geminiから曲調や作曲のアイデアを提案してもらい、それを手直ししてSunoで作曲する。
ステップ2:構成
次に、Geminiと相談しながらアニメ全体の構成を考えました。完成したOP曲をエンドレスで流しながら他の作業をし、頭の中に曲を叩き込みます。通常は絵コンテを描きますが、今回は個人作業なので、映像は頭の中で組み立て、文章ベースで構成を固めていきました。
制作手順小説と設定集をGeminiに渡し、制作の骨子となる案を作成してもらう。その案を手直ししつつ、Sunoで作った曲の歌詞を各パートに当てはめていく。
STEP 3: イラスト制作
構成が決まったら、動画の元となる一枚絵を生成AIで作成していきます。いわば「イラストガチャ」を回し、イメージに合う当たりが出るまで続けます。
絵は描けるのでクリップスタジオを使えば正直何でもできてしまうのですが、今回は公平性を保つため、部分的な修正(画像の反転やキャラの顔のヒビ割れ修正など)にとどめ、基本的にはSaeArt内で完結するように自重しました。
制作手順Geminiに構成案を伝え、場面のイメージに合ったイラストのプロンプト(指示文)を作成してもらう。この時、日本語と英語の両方で出力してもらい、精度の高い英語のプロンプトを使用します。SaeArtで当たり画像ができるまで生成を繰り返す。よく使う指示は、効率化のためにソフトの辞書機能などに登録しています。惜しいイラストが出た場合は、「SaeArtフィルムエディット」で再加工したり、クリップスタジオで向きの反転や細部の修正(顔や指など)を行ったりします。クリスタがあると何でもできてしまうので他者との公平性から普段は自重しています。
STEP 4: 動画制作
イラスト素材が集まったら、いよいよ動画を生成します。これも「動画ガチャ」なので、当たりが出るまで根気よく続けます。今回は、以前投稿した作品の臨時収入があったので、スタミナ(生成に必要なポイント)を惜しみなく投入しました。
制作の核心であったサビ部分のアンセムのリップシンクが上手くいった時は、本当に安心しました。他の部分は妥協した箇所もありますが、スタミナも尽きてきたので「編集でなんとかごまかそう」と割り切りました。
制作手順元になるイラストをGeminiにアップロードし、作りたい動画のイメージを伝えて5~10秒の動画生成用プロンプトを作成してもらいます(ここでも英語を使用)。今回は「SaeArtSonoLite」というツールを使用しました。(これはあくまで個人の見解ですが、他のいくつかの動画生成AIと同じAPIを使っているようで、同様のプロンプトで同じように動作する印象です。コストも安いので現環境ではSaeArtSonoLiteを使うことがおすすめです)。アンセムのリップシンク部分は、音楽のサビ部分を5秒だけ切り取り、動画生成の際に音声ファイルとしてアップロードすることで実現しています。曲のどの部分を切り取るか、特に入りの部分が重要そうです。
STEP 5: 命を吹き込む編集作業
集めた素材は、まだバラバラのパズルのピースに過ぎません。ここからが、映像に魂を吹き込む最も重要な工程、編集作業です。今回、動画編集ソフトは「ダビンチリゾルブ」を使用しました。無料版でもプロに匹敵する機能を使える、素晴らしいソフトです。
映像を音楽にシンクロさせる「0.1秒の戦い」
アニメOPやMV(ミュージックビデオ)の編集で最も重要なのは、曲のリズムや歌詞に映像をシンクロさせることです。特に歌が始まる瞬間の映像がズレると、視聴者の没入感を一気に削いでしまいます。
基本は曲のビートに合わせて映像を切り替えますが、それだけだと単調で予測可能な「予定調和」な作品になりがちです。そこで、あえてビートの裏(裏打ち)で映像を入れたり、部分的にタイミングをズラしたりすることで、映像に緩急と躍動感が生まれます。この作業は、まさに0.1秒単位のズレを調整し続ける、気の遠くなるような「戦い」です。
「無」が「有」を生む演出論
編集をしていると、映像のない「無音・無映像」の部分が気になり、「何かで埋めなくては」という衝動に駆られることがあります。しかし、実は「何もない部分がある」からこそ「ある部分が際立つ」という演出の考え方があります。
今回、一番こだわったサビ前の演出がその一例です。「2度と戻れない」という絶望的な歌詞の部分で、あえて映像を早めに切り、一瞬の静寂を作ります。その漆黒の闇の中から、"万魔の王" サムハインが不気味に姿を現す。これによって視聴者の不安を最大限に煽ります。そして、その直後。暗闇を切り裂くようにアンセムのリップシンクとサビの歌声が始まることで、一筋の光が差し込むような希望へのカタルシスを演出しました。このように、「静」と「動」、「絶望」と「希望」のコントラストを最大化するために、「間」は非常に重要な役割を果たします。
音との向き合い方
今回はAIが生成した動画に元々付いていた効果音を、あえてそのまま使用しています。通常、効果音は別途ダウンロードしてきて差し込むのが一般的ですが、今回は生成された素材を活かす方向でそのようにしました。
もちろん、歌を邪魔しないように全体のボリューム調整は丁寧に行っています。MVのように「歌を聴かせる」ことが最優先の場合は効果音は無い方が良いですが、今回は「世界観を伝える」ことを重視した結果の選択です。
今回の反省と次への課題
ダビンチリゾルブに触るのが初めてだったため、動画の尺を滑らかに伸ばす(スローモーション)方法や、テロップ(文字)を入れる方法などが分からず、今回は実装を断念しました。次回までにはこれらの技術を習得し、さらに表現の幅を広げたいと考えています。
最後に伝えたいこと:創造性のバトンを、あなたへ
かつて、個人でアニメを一本作り上げるなど、まさに夢物語でした。しかし今、AIをはじめとするテクノロジーの進化が、その夢を現実のものにしてくれています。誰もが、自分の頭の中にある壮大な世界を、形としてアウトプットできる時代が来ました。
この記事を読んでくださっているあなたの中に眠る、まだ誰も見たことのない世界観や物語、愛すべきキャラクターや斬新なアイデア。どうか、それを自分だけの世界に留めず、思い切って外の世界へ解き放ってみてください。
世の中にあふれかえった商業的な異世界転生物や、売り上げの計算できる有名作品のアニメ化という大きな流れに、あなただけが投じられる創造性という一石を投じてみませんか?
その小さな一石が、やがて大きな波紋を呼び、世界はもっと、多様で、彩り豊かな場所になるはずです。
長文に最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。















